もう10月、急に秋らしくなりましたね。何か羽織るものを持たないと夜はぐっと冷えてきます。
ここのところ、少し気になっていたことがあります。
先日、故郷の群馬に帰った時のこと。
長兄が2年前のリサイタルの話をして、「“You’d be so nice…”とか、もっと知ってる歌を聴きたかったなあ」と言いました。
また、リサイタルに来てくださった同じマンションのジャズ好きのAさんからも、「吉野さん、Mistyとか、ああいうスタンダードは歌わないの?」と聞かれました。
実は、同じような感想を他の方からも時々いただきます。スタンダードが嫌いなわけではなくいまでも歌いますが、今はそれ以外の曲も歌います。
私は20代半ばから5〜6年ほど、品川プリンスホテルやホテルニューオータニで、よく知られたスタンダードナンバーを歌っていました。
ニューオータニの1階には「カプリ」というバーがあり、奥まった場所にピアノがありました。
その周りを囲むようにカウンターがあり、ベーシストとドラマーのピアノトリオに、ヴォーカルが加わったカルテットで毎晩演奏していたのです。
国内外のお客様がグラス片手に楽しんでくださり、他のホテルに宿泊している方もわざわざ聴きに来てくださるほど人気のある場所でした。
来日中の外国人ミュージシャンがセッションに参加してくれることもあり、毎晩がとても楽しかったのを覚えています。
たくさんの曲を覚え、いい勉強になり、お金もいただきました。
でも、5年を過ぎた頃、「もういいな。もっと勉強したい!」と思い、バークリー音楽大学に留学したのです。
もしタイムスリップができるなら、昔からのジャズのスタンダード好きの方々をニューオータニで歌っていたあの時代にお連れしたいくらいです。
あの頃のカプリは、まさにそんな“音楽の場”。
リラックスしてお酒を飲みながらスタンダードを楽しむには最高の空間でした。
――残念! It’s too late!
バークリー時代、私の選ぶ曲は私の周りからは評判が良く、友人や先生から「いい曲教えて?」「その譜面ちょうだい!」とよく言われました。
私がワクワクするような曲は、今の日本ではあまりvocalistが歌わないものが多く、ミュージシャンでも馴染みが薄いので、観客はもちろんです。
ライブでも有名なスタンダードを歌いますがいつもその時に自分で歌いたいので歌います。
でも、いつもライブに来てくださる方々は、そういう音楽を楽しんでくださる。
私の選ぶ珍しい曲も、音楽性が合うのか、、聴いているうちに好きになったのか、あるいは演奏する私たちの何かが伝わったのか――理由はわからないけれど、いつも温かく支えてくださっています。
ライブは、ミュージシャンの表現の場です。
自作曲を演奏する人もいれば、長いアドリブを取る人もいる。
観客を無視しているわけではなく、その日のために日々精進し、今の自分を音で表現しているのです。
バークリーで私は、“音楽の持つ自由で広い世界”、そして“音楽に真剣に向き合う仲間や教師”に出会いました。
その時に感じた、学んだ「音楽の世界」良い音楽へなるためへの音楽への献身や真摯な姿勢は、今も変わらず私の中にあります。どれだけできるかわからないけど、その気持ちを絶やさないように向き合おうとしています。
音楽の好みは人それぞれ。それぞれの音楽の世界、どちらが良いとか悪いとかではありません。
私は、私が選んだ世界を、好きにわがままに生きていきたいと思います。